小倉貴久子の《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》

シリーズコンサート 公演記録(第5チクルス:第14回、第15回、第16回)

《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》には毎回、モーツァルトと関わりのある作曲家等をひとりずつゲストとして迎えます。 モーツァルトとゲスト作曲家のクラヴィーアのソロ作品、またピリオド楽器奏者と共にお届けする室内楽、連弾、歌曲などなど、お話を交えながらのコンサートです。 18世紀にタイムスリップしたかのようなひととき、《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》にみなさまをご案内いたします!

《第14回》

2014年11月19日(水)午後7時開演(開場6:30)

近江楽堂 

《第14回》公演は終了しました! 

〔ゲスト作曲家〕Ch.W.グルック Christoph Willibald Gluck [1714-1787]

小倉 貴久子(クラヴィーア)・野々下由香里(ソプラノ)

Ch.W.グルック:

「戦いの歌」「ああ、私のやさしい炎が」

歌劇《思いがけない巡り会い》より序曲、「われら愚かな民の思うは」「見知らぬすてきな方」「あなたがあんなに突然立ち去ってしまわなければ」

 

モーツァルト:

〈ロンドンのスケッチブック〉より ハ長調 K.Anh.109b-2、グルックのテーマ アンダンティーノ 変ホ長調 K.236、クラヴィーアソナタ 変ロ長調 K.570、「鳥たちよ、年ごとに」「寂しい森の中で」「ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いたとき」、グルックの歌劇《思いがけない巡り会い》の「われら愚かな民の思うは」による10の変奏曲 ト長調 K.455、歌劇《フィガロの結婚》K.492より「自分で自分がわからない」「恋とはどんなものかしら」

(写真はゲネプロの様子)

〔コンサートの聴きどころ〕第14回:Ch.W.グルック

モーツァルトが産声を上げた頃、ウィーンでオペラ作曲家として少し遅咲きの花を咲かせ始めたグルックは、修業時代に蓄えたオペラに対する思想を音楽に託し、次々と世に問う作品を発表してゆきます。歌手たちの虚栄心におもねる音楽から、詩に奉仕する音楽への転換。オペラ《タウロイのイフィゲネイア》のウィーン上演(1781年)ではモーツァルトもその稽古に立ち会っていました。グルックのオペラ改革なしにモーツァルトのオペラは生まれなかったかもしれません。 
〈思いがけない巡り会い/メッカの巡礼たち〉は、18世紀中最も人気のあったグルックのオペラで、モーツァルトはこの作品から感化を得て〈後宮からの逃走〉を作曲しています。また、アリア「われら愚かな民の思うは」の主題によるモーツァルトの変奏曲は、ヨーゼフⅡ世、そしてグルックも臨席していた演奏会で弾かれたものです。そのオペラからアリアと知られざる歌曲を、そしてモーツァルトの歌曲とアリアをお届けします。

〔第14回公演報告〕

クラヴィーアとは縁の薄かったグルックですが、古典派の時代にオペラ改革を施し、モーツァルトに多大な影響を与えたこの人を取り上げるには遅過ぎたほどでした。〈グルックの歌劇《思いがけない巡り会い》の「われら愚かな民の思うは」による10の変奏曲 ト長調 K.455〉は、現代的な視点で楽譜だけを見ると、厳格な書法からまじめに演奏しがちです。ところが原曲となったグルックのオペラはコメディー仕立ての、至るところ笑いに溢れたもの。元となったアリアも怪し気な托鉢僧が、「愚かな民はみじめな暮らしをしている托鉢僧だとおもうだろうが、実は食卓には100のおかずに...」とおもしろおかしく歌うアリアです。このアリアを鑑賞したあとにモーツァルトの変奏曲を聴いて初めて分かるユニークな側面に会場が沸きました。モーツァルトが2曲だけ残したフランス語歌曲。野々下由香里さんの当たり役のケルビーノのアリア。今回は近江楽堂が華やかな劇場に変身したようでした!

公演の模様

第14回公演の使用楽器:Klavier made by Chris Maene after Anton Walter [1795]


《第15回》

2015年1月16日(金)午後7時開演(開場6:30)

近江楽堂 

《第15回》公演は終了しました! 

〔ゲスト作曲家〕J.Ch.Fr.バッハ Johann Christoph Friedrich Bach [1732-1795]

小倉 貴久子(クラヴィーア)・荒川 智美(クラヴィーア)

J.Ch.Fr.バッハ:

四手のためのソナタ イ長調、ソナタ ニ長調、「お母様きいてちょうだい」による18の変奏曲、四手のためのソナタ ハ長調

 

モーツァルト:

〈ロンドンのスケッチブック〉より小品 ト長調 K.15c、「お母様きいてちょうだい」による12の変奏曲 K.265 (300e)、四手のためのソナタ 変ロ長調 K.358 (186c)

(写真はゲネプロの様子)

〔コンサートの聴きどころ〕第15回:J.Ch.Fr.バッハ

J.S.バッハの音楽家になった息子で3番目にあたるヨハン・クリストフ・フリードリヒ・バッハは、1750年から亡くなるまで、小さいながらも当時有数の文化の香り高い宮廷で知られていたビュッケブクルクの宮廷に仕えました。1778年、弟ヨハン・クリスティアン・バッハの住むロンドンを息子と訪問。そこでモーツァルトを知り熱烈な讃美者になります。ロンドンでフォルテピアノを購入しビュッケブルクに戻ったクリストフ・フリードリヒは、新しく就任した伯爵と、夫亡き後を摂政として継いだ夫人ユリアーネの元、楽長の務めを続けます。ユリアーネは傑出したピアニストでもあり、晩年のクリストフ・フリードリヒは、亡くなるまで古典的スタイルをこの街で極めることができました。 
クリストフ・フリードリヒは、鍵盤の名手でも知られ、鍵盤作品にも独自の魅力があります。「お母様きいてちょうだい」の主題による両作曲家の変奏曲の聴き比べや、四手のための作品などをお楽しみいただきます。

〔第15回公演報告〕

ビュッケブルクのバッハと呼ばれる本日のゲスト、大バッハの三男は4人の息子の中で最も影の薄い存在ですが、モーツァルトの音楽を知ってから大ファンになったという通り、モーツァルトと音楽上の共通点が多く、聴き比べは大変興味深いものがありました。クリストフ・フリードリヒの俗称「きらきら星変奏曲」は18からなる変奏曲ですが、クラヴィーアから様々な色合いを引き出す佳曲。四手の作品もモーツァルトとはまた違った書法がおもしろく、古典派好きには楽しめる要素のたくさん詰まった晩になりました。演奏者の背後から見守るクリストフ・フリードリヒの肖像がニンマリと四手の共演を楽しんでいるようでした。

公演の模様

第15回公演の使用楽器:Klavier made by Chris Maene after Anton Walter [1795]


《第16回》

2015年3月18日(水)午後7時開演(開場6:30)

近江楽堂 

《第16回》公演は終了しました!

〔ゲスト作曲家〕J.L.ドゥセク Jan Ladislav Dussek [1760-1812]

小倉 貴久子(クラヴィーア)・川口成彦(クラヴィーア)

J.L.ドゥセク:ソナタ「エレジー・アルモニク」嬰ヘ短調 作品61、四手のためのソナタ 変ロ長調 作品74、四手のための3つのフーガより 第2番 ト短調、第3番 ヘ長調

 

W.A.モーツァルト:〈ロンドンのスケッチブック〉より小品 ニ長調 K.15d、四手のためのアンダンテと5つの変奏曲 ト長調 K.501、フランスの歌「美しいフランソワーズ」による12の変奏曲 変ホ長調 K.353

(写真はゲネプロの様子)

〔コンサートの聴きどころ〕第16回:J.L.ドゥセク

ヤン・ラジスラフ・ドゥセクは、チェコに生まれ修業時代を終えるとヨーロッパ各地を遍歴してピアニスト、ピアノ教師として各地で名を挙げます。ドゥセクが美しい横顔を見せるためにピアノを横置きにしてコンサートをしたのが、現代まで継承されています。フランス革命勃発時にパリにいたドゥセクは、混乱から逃れるようにイギリスへ渡ります。ロンドン滞在中にはブロードウッド社にピアノの音域の拡大を働きかけ、94年に6オクターヴのピアノが完成。ドゥセクは早速この音域で曲を書いています。 
イギリスで事業に失敗。妻子を残し大陸に戻ったドゥセクは、プロイセンのルイ・フェルディナント王子の楽長になりますが、間もなく王子はザールフェルトの戦いで戦死。ドゥセクは〈エレジー・アルモニク〉を書き、死を悼みました。

〔第16回公演報告〕

第16回の小倉貴久子の《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》は、シングルアクション・ハープの西山まりえさんの体調不良により、急遽クラヴィーアの川口成彦さんの出演となりました。ドュセクの四手作品は技巧的で難解な作品ですが、川口さんの高度なテクニックと音楽性で、ドゥセクの独特の世界観が立ち上がることに。

共演者とプログラムの変更にも関わらず、お客さまには寛容に受け入れていただき、そして盛大な拍手をいただきました。いつもと変わらない盛況な回を迎えられましたこと、心より感謝いたします。

ドゥセクはボヘミア出身で、古典派からヴィルトゥオーゾの時代にかけてピアノの名手として活躍した、クラヴィーア奏者にとっては重要な作曲家です。「四手のためのソナタ 作品74(葬送行進曲付き)」と「四手のためのフーガ 作品64」はピアノ連弾史に輝く名作と言ってよいでしょう。そして1807年の書かれたソナタ「エレジー・アルモニク」はドゥセクの金字塔的作品のひとつです。古典期の鬼才と呼ぶにふさわしいドゥセクの作品に会場は大きく沸きました!モーツァルトの作品からは連弾用の変奏曲と、「美しいフランソワーズ」による12の変奏曲というふたつの変奏曲をお届けしました。

公演の模様

第16回公演の使用楽器:Klavier made by Kenta Fukamatti after John Broadwood [ca.1802]