小倉貴久子の《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》

シリーズコンサート 公演記録(第8チクルス:第24回、第25回、第26回)

《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》には毎回、モーツァルトと関わりのある作曲家等をひとりずつゲストとして迎えます。 モーツァルトとゲスト作曲家のクラヴィーアのソロ作品、またピリオド楽器奏者と共にお届けする室内楽、連弾、歌曲などなど、お話を交えながらのコンサートです。 18世紀にタイムスリップしたかのようなひととき、《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》にみなさまをご案内いたします!

《第24回》

2016年11月16日(水)午後7時開演(開場6:30)

近江楽堂

《第24回》公演は終了しました! 

〔ゲスト作曲家〕F.I.v.ベーケ Franz Ignaz von Beecke [1733-1803]

小倉 貴久子(クラヴィーア)・ルーファス・ミュラー(テノール)

F.I.v.ベーケ:

クラヴサン曲集よりソナタ 第9番 ヘ長調、第4番 イ短調、第7番 ト長調/アリエッタと15の変奏曲 ハ長調/悩める者に/夏の夜/思慕/私の守護霊に/夕星に/恋人たちの泉の精に/祈りを捧げるラウラ

 

モーツァルト:

小品 K.15m/ボーマルシェの〈セヴィリヤの理髪師〉のロマンス「私はランドール」による12の変奏曲 変ホ長調 K.354 (299a)/すみれ K.476/クローエに K.524/さびしく森で K.308/ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いたとき K.520/別れの歌 K.519/夕べの想い K.523

(写真はゲネプロの様子)

〔コンサートの聴きどころ〕第24回:F.I.v.ベーケ

 ベーケは士官を職として選び、音楽家としても大成した風変わりな経歴の持ち主。戦功を上げ、音楽家としても並々ならぬ腕前をもっていたため、オーケストラを擁していたヴァラーシュタイン伯の元に雇われます。音楽監督としてシンフォニーを自作し指揮をし、またウィーンやパリを訪れてドイツ内外で有名な作曲家と称えられるにいたります。ベーケはピアニストとしても有名で、1774年から翌年にかけてのモーツァルトのミュンヘン滞在時には、フォルテピアノでの競演で名人芸的技巧を披露し、まだフォルテピアノでの演奏経験の少なかったモーツァルトに苦杯を嘗めさせています。ベーケの洗練されたピアノ演奏は、後のモーツァルトに大きな影響を与えることとなります。 

 ベーケは舞台作品から管弦楽曲、室内楽と多くのジャンルに筆を染めていますが、情感あふれる歌曲は特筆すべきものがあります。モーツァルトの作品とあわせて、リートの世界に想いを馳せる晩といたしましょう。

〔第24回公演報告〕

1775年〜75年、ベーケとモーツァルトがクラヴィーア演奏で対決をしたおりには、モーツァルトはまだ新出の楽器、フォルテピアノの演奏に慣れていなかったこともあり、モーツァルトに分の悪い結果に終わりました。ベーケは士官として名声もあり、クラヴィーアの腕前も高く作曲もするという才能に恵まれていたため、モーツァルトに援助の手を差し伸べてもいたわけですが、モーツァルトの対抗心が収まることはなかったということ。これほど興味深い作曲家が現在では完全に埋もれたままなっているのは陰謀でもあるのかといぶかしむほどです。ドイツリートの分野の先駆けとなるような情緒豊かな歌曲は見逃すことができません。シンフォニーや室内楽の分野でもこれから大いに復権が求められるところです。この日のテノールのルーファス・ミュラーは魅惑的な歌声と音楽への深い洞察力、集中力でモーツァルトとベーケの歌曲の魅力を余すところなく表現。私たちにとっても特別な夜となりました。

第24回公演の使用楽器:Klavier made by Chris Maene after Anton Walter [1795]


《第25回》

2017年1月9日(月・祝)午後2時開演(開場1:30)

近江楽堂

《第25回》公演は終了しました! 

〔ゲスト作曲家〕J.M.クラウス Joseph Martin Kraus [1756-1792]

小倉 貴久子(クラヴィーア)・原田 陽(ヴァイオリン)・山本 徹(チェロ)

J.M.クラウス:

クラヴィーア・トリオ ニ長調 VB171/ソナタ 変ホ長調 VB195

 

モーツァルト:

小品 ヘ長調 K.15n/ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 K.380/アダージョ ロ短調 K.540/クラヴィーア・トリオ ト長調 K.564

〔コンサートの聴きどころ〕第25回:J.M.クラウス

 ドイツに生まれ、スウェーデンのロココ文化王として名高いグスタヴⅢ世の宮廷に雇われたクラウスは、モーツァルトと生年が同じで、モーツァルトの死の翌年に病死。二人は同じ時代のヨーロッパを生きました。演劇を愛する国王に、劇作品の作曲家として認められ、ヨーロッパ各地を巡る研修の旅に出ます。ウィーンではグルックとハイドンに出会い、パリからイギリスを経て5年後の1787年にスウェーデンに帰国。その後の活躍の時間は限られたものでしたが、いくつかの劇作品の傑作を残しています。1792年のグスタヴⅢ世暗殺事件は、オペラの題材にもなり現代まで語り継がれていますが、クラウスはこの事件に呼応し、感動的な葬送交響曲とカンタータを残しています。 

 クラウスが1785年にパリで書いたクラヴィーアソナタと、スウェーデン帰国後に作曲した傑作クラヴィーアトリオを。モーツァルトのトリオとヴァイオリンソナタ、深淵なアダージォと共にお楽しみいただきます。

〔第25回公演報告〕

第25回のゲスト作曲家J.M.クラウスは、モーツァルトと生没年がほとんど同じ。ドイツに生まれ、スウェーデンの時の国王、啓蒙君主としても知られていたグスタヴ3世の元に仕えます。文化活動が盛んに行われていたスウェーデンで劇作品などの名作を残しました。この日に演奏されたヴァイオリン・ソナタもクラヴィーア・トリオも名作で、満席にお集まりいただいお客様から大歓迎を受けました。室内楽ではこの度が初共演となる若さ溢れるヴァイオリンの原田陽さん、チェロの山本徹さんとのアンサンブルは興奮の連続となりました!

第22回公演の使用楽器:Klavier made by Chris Maene after Anton Walter [1795]


《第26回》

2017年3月28日(火)午後7時開演(開場6:30)

近江楽堂

《第26回》公演は終了しました!

〔ゲスト作曲家〕G.F.ピント George Frederick Pinto [1785-1806]

小倉 貴久子(クラヴィーア)

G.F.ピント:

「私の母さん」のテーマによる8つの変奏曲 イ長調 作品2-1/グランド・ソナタ ハ短調/グランド・ソナタ 変ホ長調 作品3-1

 

モーツァルト:

小品 ニ長調 K.15o/ロンド(アンダンテ)ヘ長調 K.616(原曲:時計仕掛オルガンのため)/5つの変奏曲 ヘ長調 K.Anh.138a/ソナタ ヘ長調 K.332

(写真はゲネプロの様子)

〔コンサートの聴きどころ〕第26回:G.F.ピント

 イギリスに生まれ、クラヴィーアとヴァイオリンの両方の演奏に幼い頃より才能を発揮。将来を大いに嘱望されたピント。聡明で心の優しい青年だったとのことですが、20歳という若さで天に召されてしまいました。ザロモンは「もし彼が生きながらえていたならば、イギリスは第2のモーツァルトを生み出す名誉を得たであろう」と評しています。本格的な作曲に費やされた年月はわずか3年ほどですが、作品からは独創的な天才のひらめきが放たれています。 

 クラヴィーアソナタはピントの才能がいかんなく発揮された名作。変奏曲からはヴィルトゥオーゾとしてのピントの姿が映し出されています。モーツァルトの作品からは時計仕掛けオルガンのためのロンド、美しく華麗で愛らしいヘ長調のソナタ、変奏曲をお届けします。当時、イギリスではスクエア・ピアノが大人気でした。それに因み、イギリスの名工、J.ブロードウッド製のスクエア・ピアノでお聴きいただきます。

〔第26回公演報告〕

第26回のゲスト作曲家G.F.ピントは、20歳で亡くなった夭折の作曲家。ヴァイオリンもピアノも共によく弾いたというピントの残した2曲のグランド・ソナタは天才性の香る充実した作品。当夜のコンサートでは、本シリーズ初となるスクエアピアノが登場。イギリスの名工ブロードウッドが1814年に製作したオリジナルです。チェンバロからピアノへと音楽界の主役交代にはこのスクエアピアノが大活躍しました。音楽愛好家たちに大人気だったスクエアピアノ。優しくなめらかな響きがモーツァルトとピントの作品によくマッチし、会場は大いに盛り上がりました!

第26回公演の使用楽器:Square Piano by John Broadwood [1814]