フォルテピアノ:小倉貴久子
収録曲:
シューベルト:即興曲 変イ長調 作品90-4 1827年?
ハイドン:「3つのイギリスソナタ集」より クラヴィーアソナタ 変ホ長調 Hob.16:52 第1楽章 1794年
シューベルト:即興曲 変ロ長調 作品(遺作)142-3 1827年
メンデルスゾーン:7つの性格的小品集より「やわらかな、そして感情豊かに」ホ短調 作品7-1 1827-29年
フィールド:ノクターン ハ短調 1814年改訂
ショパン:ノクターン 変ホ長調 作品9-2 1832年
メンデルスゾーン:無言歌集より「春のうた」イ長調 作品62-6 1844年
ベートーヴェン:創作主題《トルコ行進曲》の主題による6つの変奏曲 ニ長調 作品76 1809年
ベートーヴェン:クラヴィーアソナタ ヘ短調 作品57「熱情」より 第1楽章 1804-05年
ベートーヴェン:「エリーゼのために」イ短調 作品番号外59 1810年
使用ピアノ:ワルター1808-10、ブロードウッドc.1802、グラーフ1819-20、プレイエル1830、フリッツ1805-08、シュトライヒャーc.1815
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このCDは「ぶらあぼ」の「ニュース小耳大耳」のコーナーで紹介されました。
19世紀前半のピアノはなんと個性に満ちていたことだろう
博物館所蔵の名器による音の色を楽しむ
美しく艶やかなアルバム
ぶらあぼ 2005年9月号 ニュース小耳大耳
浜松市楽器博物館が貴重な所蔵楽器を録音したCDを発売
国内の楽器関係の資料館としては最大級の規模を誇る浜松市楽器博物館が、所蔵している楽器を利用したCD4枚をリリースした。そのうち、チェンバロ及びピアノをテーマとしたディスクが3枚を占めているが、そのいずれも制作者の熱意が伝わってくるような、充実した内容となっている。
とりわけ注目は、コレクションシリーズ4「フォルテピアノ」。このタイトルには、19世紀前半に制作された計6台のピアノによる演奏が収録されている。この時代のピアノという楽器は、産業革命の落とし子だった。技術革新の成果が注ぎ込まれることによって、音域は広がり、音色が変化し、音量は次第に増大していった。そのような物質的な変化を遂げつつも、6台の楽器それぞれの音色、そして美しい外観には、制作者や地域の違いによる明確な個性が刻まれている。このCDを手に取ることによって、各楽器のユニークな個性を、巧みな選曲と演奏によって手軽に楽しむことができる。
当時のピアノは、発音機構(アクション)の違いによってイギリス式とウィーン式に二分することが出来る。ウィーン式はその名の通り、ドイツ語圏を中心に採用され続けたが、現在ではイギリス式に完全に取って代わられたため、我々が知っているピアノは全て、イギリス式のアクションを備えたピアノである。しかしながら、19世紀初頭のウィーンの作曲家達には、イギリス式アクションを備えたピアノと出会いは、まさに未知との遭遇だった。このディスクには、ヨーゼフ・ハイドンとベートーヴェンが、イギリス式アクションとの出会いから生み出したソナタ2曲(うち1曲はあの「熱情」だ)の第一楽章が収められている。
他にも、ノクターンの開祖とされるフィールドの作品を、ショパンのノクターンと同時に楽しむことができたり、ベートーヴェンの「エリーゼのために」からシューベルトの即興曲、メンデルスゾーンの無言歌といった作品によって、ウィーン式の楽器が持つ繊細さを堪能できたりなど、当時の楽器の個性を様々な角度で楽しむことが可能だ。そんな収録作品の中でも異色なのは、ベートーヴェンの『創作主題「トルコ行進曲」の主題による6つの変奏曲』。この作品の演奏で使われているウィーン式アクションのフリッツには、ファゴットペダルという独特のペダルや、鐘や響板を叩く太鼓という、現在のピアノでは「あり得ない」メカニズムが内蔵されている。その楽器が奏でるトルコ行進曲は、「打楽器付きピアノ」って有りなのかという価値観を越えて、素直に愉しい。
ところで、そんなピアノが織りなすドラマの原点は、18世紀フィレンツェのある天才の発明にある。その発明とは、コレクションシリーズ5「クリストーフォリ・ピアノ」で演奏されているバルトロメオ・クリストーフォリによる「グラーヴェチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」、いわゆる世界初のピアノを指す。クリストーフォリのピアノは、世界には3台しか残されておらず、いずれもその響きを確認できる状態にはないが、古楽演奏の高まりと共に、レプリカの制作が試みられるようになった。このディスクで使われている楽器は、そのようなレプリカ制作の中でも、いち早く1995年によって行われたものである。
その録音は、クリストーフォリ・ピアノを前提に書かれたジュスティーニのソナタで始まり、ドメニコ・スカルラッティやマルチェッロの作品、そして最後はヘンデルの「調子の良い鍛冶屋」で締めくくられている。そのヘンデルの有名な作品は、コレクションシリーズ3「チェンバロ」の冒頭にも納められているため、当時の2つの楽器の聴き比べが可能となっている。字幅がつきてしまったが、このチェンバロ編の内容も無論充実、特にブランシェの輝かしい音色が印象的である。
演奏者の小倉貴久子、中野振一郎は我が国を代表する名手達であり、彼ら自身が手がけた解説文は、楽器や作品の魅力を分かりやすく伝えてくれる。ピッチや音域も記載された楽器の紹介を含むオールカラーの解説は、見ているだけでも楽しい。空間的な広がりよりも、楽器の響きに焦点を置いた録音は、楽器それぞれの個性を明確に伝えてくれる。これだけ充実した内容ながら、価格は2,200円と比較的安価な設定。浜松市楽器博物館のミュージアムショップと、小倉貴久子のホームページ(シリーズ4、5のみ)から購入可能。[丸田哲也氏]