コジェルフ クラヴィーア作品集

フォルテピアノ:小倉貴久子

 

収録曲:

レオポルト・アントン・コジェルフ(1747〜1818)

ソナタ ト短調 Op.15-1、ソナタ 変ホ長調 Op.26-3、ソナタ ヘ短調 Op.38-3

カプリス 変ホ長調 Op.45-1、カプリス 変ロ長調 Op.45-2、カプリス ハ短調 Op.45-3

使用ピアノ:Chris Maene, in Belgie. 1995 (model Anton Walter, in Wien. 1795)

録音:2004年8月 牧丘町民文化ホール 発売:2005年2月

楽曲解説:安田和信

ALM Records ALCD-1067 2,940円(税込価格)

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CD:コジェルフ クラヴィーア作品集

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このディスクは、「レコード芸術誌」で「特選盤」となり、朝日新聞の「クラシック試聴室」で推薦盤として紹介され、読売新聞の「サウンズBOX〜クラシック」、音楽の友05年4月号の"Disc Selection of The Month"、ぶらあぼの「新譜ピックアップ」のコーナーで取り上げられました。

モーツァルトを震撼させた18世紀のロマンティスト、コジェルフ

鮮烈な演奏でここに蘇る【カプリス 世界初録音】

 

L.A.コジェルフは、ボヘミア出身で18世紀末から19世紀初頭にウィーンで活躍した人で、モーツァルト晩年の1780年代には、モーツァルトを凌ぐ名声と人気を得ていました。1792年には、モーツァルトの後を継いでウィーン宮廷作曲家に任命されています。またコンヴィクト時代のシューベルトはコジェルフのオーケストラ作品を特に好んで演奏したと伝えられています。作品はオペラ、交響曲、各種コンチェルトと幅広く、中でも100曲を越えるクラヴィーアソナタの充実度は注目に値するものです。コジェルフ Who's Who

 

コジェルフについて 安田 和信

 

 「私自身が耳にしたところでは、どちらかといえば熱心で熟練したウィーンの音楽愛好家たちの多くは、[カール・フィリップ・エマヌエル]バッハについて語ることに無関心であるだけでなく、内に敵愾心を持っている。クラヴィーアに関するかぎり、彼にとってはシュテファンとコジェルフがすべてであった。」

 これは、作家フリードリヒ・ニコライ(1733~1811)の著作『ウィーンの音楽について』(1784年)からの引用である。ニコライはベルリン出身ゆえに、北ドイツ語圏の代表的なクラヴィーア音楽の作曲家であるバッハを引き合いに出しながら、ウィーンでは、ボヘミア出身の2人が高い人気を誇っているとしている。その2人の作曲家とは、ヨーゼフ・アントン・シュテファン[シュチェパーン](1726~97)、そして本盤の主役、レオポルト・アントン・コジェルフである。

 コジェルフは1747年6月26日、プラハの近郊の街ヴェルヴァリで靴職人の父のもとで生まれた(姓の“Kozeluh”はチェコ語で「なめし皮職人」の意)。同じく著名な音楽家となった従兄弟のヨハン・アントン(1738~1814)と区別するため、1770年代からレオポルトの名を使用している。生地で基本的な教育を受けた後、プラハで活動していた従兄弟や、モーツァルトと親交をもつこととなるフランツ・クサヴァー・ドゥーシェクのもとで研鑽を積んだ。エルンスト・ルートヴィヒ・ゲルバーの『歴史的・自伝的音楽家辞典』(1790~92年刊)によれば、修業時代のコジェルフは、ヨーゼフ・ハイドンの音楽を研究していたという。70年代よりプラハでバレエなど劇場音楽の分野で成功を収めている。最初のピアノ・ソナタ集が73年にブライトコップより出版されている。

 1778年にウィーンへ移住したコジェルフは、クラヴィーア奏者、作曲家、教師として活動することとなった。3年後に同地へ移住して来るモーツァルトと同じように、彼はフリーランスの音楽家だったのである。1780年に崩御したマリア・テレージアを悼む葬送カンタータを作曲しているところからも、ウィーンでの彼の名声はモーツァルト登場以前に確立していたことが窺えるだろう。ピアノ教師としても多くの弟子をもち、モーツァルトとも関係のあるマリア・テレージア・パラディースなどもコジェルフに師事していた。先述のニコライの言葉にもあるように、1780年代におけるコジェルフの人気は非常に高かったのである。ちなみに、モーツァルトとコジェルフは交友関係があったのは間違いなく、少なくとも前者が後者を同業者として強く意識していたのは間違いない。

 85年には弟のアントニーン・トマーシュ(1752~1805)とともに「ムジカリシェス・マガザンMusikalisches Magazin」なる名の出版社を興している。この出版社は1802年頃まで活動し、その主目的は自作出版であったが、クレメンティ、プレイエルなどの人気作曲家の作品も出版されている。モーツァルト作品も特に彼の死後から出版されている(ただし、《魔笛》K620が初演された直後の1791年12月には、このオペラの13のナンバーを歌とクラヴィーアのために編曲した版を販売している)。1792年に新皇帝のレーオポルト2世より宮廷作曲家に任命され、名実ともにウィーンを代表する音楽家の一人となった。

 晩年のコジェルフは宮廷作曲家としての仕事や教育活動に専念し、作曲活動はイギリス各地の民謡編曲などに限られていた。ベートーヴェンやシューベルトが既に充実した活動をしていた1818年の5月7日、彼はウィーンで没している。

ぶらあぼ 2005年3月号 新譜 ぴっくあっぷ 一聴必聴 このCD&DVD

CD コジェルフ:クラヴィーア作品集/小倉貴久子

 古典派ファン垂涎もののアルバム。レオポルド・アントン・コジェルフ(1747~1818)はプラハ出身で、ウィーンに出てきてからはクラヴィーア奏者、作曲家としてモーツァルトのライヴァルとなった人。ギャラント様式よりも、躍動感と迫力ある展開など男性的な作風が大きな特徴だ。特に短調ソナタはロマン派を先取りするような表現的な和声や力感に満ちたパッセージが使われ、聴き手をぞくぞくさせる。小倉貴久子のアプローチは精緻ながら勢いがあり、何よりも作品に共感して弾いているのが良い。世界初録音となるカプリスなど凄い名演だ。〈城氏〉

 

音楽の友 2005年4月号 Disc selection of The Month(今月のディスク)から

CD コジェルフ:クラヴィーア作品集/小倉貴久子

 今月聴いたCDのなかで一番驚き、そして感心したのは小倉貴久子のフォルテピアノによる「コジェルフ:クラヴィーア作品集」だ。コジェルフ(1747~1818)はモーツァルトと同時代にウィーンで活躍した作曲家で、あらゆるジャンルの音楽を書いた。コジェルフの優秀さはともかく、驚いたのは小倉の演奏の雄弁さだ。楽譜からこれほど生き生きした音楽をひきだすのはよほどのファンタジーの持ち主に違いない。聴き手の心を爽快にしてくれる演奏だ。〈小畑恒夫氏〉

 

レコード芸術 2005年4月号

CD評 コジェルフ:クラヴィーア作品集/小倉貴久子

[推薦]モーツァルトの時代にウィーンで名を挙げたボヘミア出身の作曲家、レオポルト・アントン・コジェルフ。以前、LPの時代に聴いた、彼の手になる情感豊かな短調交響曲が心に残っているが、当盤の第1曲《ソナタ》ト短調が鳴り出すと、そのイメージがそのまま再現されるので、つい嬉しくなってしまう。後段にもヘ短調の《ソナタ》とハ短調の《カプリス》が置かれるほか、中間を占める長調作品のうちにも「感性に富んだ」と形容できるような部分は少なくない。CD全体を聴き通すにつけ、これだけ魅力にあふれた鍵盤曲が、音楽史家か一部の熱心な愛好家以外には知られずに過ぎてきたことは、じつに残念かつ勿体ないことだったと嘆ぜざるを得ない。もとよりそれだけに、コジェルフの楽曲をまとめて、しかもフォルテピアノによる「深く感じ切られた」名演のもとに紹介してくれるこのディスクの価値は、文字どおり計り知れない。それにしても小倉貴久子の演奏はすばらしい。当CDも幸いなことに安田和信氏の周到なライナー・ノーツを得ているが、その中で氏が「・・誤解を恐れずにいえば、小倉は感情表現をしているのではない。いまそこに生まれ続ける音楽の感情とともに彼女は「生きている」のだ」と記しておられるのは至言であろう。たしかにそこまで、この人が示す作品への、そして己の愛器への同化は深い。当CDを、これまでに作られたフォルテピアノの全ディスク中、最上のランクに入れることを私はためらわない。それは同時に、コジェルフという作曲家を真に見直すことにもつながる。ピアニストに対し、心からの賛美と感謝を記しておきたい。〈濱田滋郎氏〉

[推薦]レオポルト・アントン・コジェルフ(1747~1818)のおよそ40曲のピアノ・ソナタのうち、80年代のソナタが2曲、90年代初期が1曲。それに97年に出版されたカプリスが収録されている(ソナタの合間にカプリスを挟んで、調性的な流れをよくしている)。使用楽器はマーネによるヴァルター(オリジナルは1795年)。シュタインに比べてがっしりとした作りの硬質なサウンドは、これらの情熱的かつヴィルトゥオジティの魅力に満ちた音楽にぴったりだ。ここでの小倉貴久子は集中力と表出力の強い演奏を聴かせている。《ソナタ》ト短調は和音や移ろいや各部分の音楽的な特徴が明確に捉えられ、指巡りも鮮やか。第2楽章のロンドでは多彩なアーティキュレーションが雄弁に音楽を語る。《カプリス》変ホ長調は抑制された表現とダンパー装置の効果が相俟って幻想味溢れる演奏に仕上がっている。《ソナタ》変ホ長調第1楽章アレグロのリズムの力強い推進力、第2楽章のやわらかなシチリアーノ舞曲風の前半と中間部の情熱的な部分とのコントラストも見事。モデラート装置の使用も気が利いている。コジェルフといえば、コンチェルト・ケルンやオーケストラ・シンポシオン、ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズのディスクが想起されるが、いずれも管弦楽作品。クラヴィーアのためのソナタにもいくつか録音があったと記憶しているが、まだまだ大作曲家の影に隠れたマイナーな存在であることには変わりはない。そこに今回、ピリオド楽器による充実した秀演が加わったことを、大いに喜びたい。〈那須田務氏〉

録音評 90~93点 〈若林駿介氏〉