ベートーヴェン 「月光」 幻想曲風ソナタ/クラヴィーア作品集 SONATA QUASI UNA FANTASIA

フォルテピアノ:小倉貴久子

 

収録曲:

L.v.ベートーヴェン(1770〜1827)

 7つのバガテル 作品33

 クラヴィーアソナタ 第13番 変ホ長調 作品27-1(幻想曲風ソナタ)

 クラヴィーアソナタ 第14番 嬰ヘ短調 作品27-2「月光」(幻想曲風ソナタ)

 自作主題による6つの変奏曲 ヘ長調 作品34

使用ピアノ:クリス・マーネ(ベルギー)1995年製作

      アントン・ヴァルター(ウィーン)1795年製のレプリカ

録音:2001年8月16日〜18日 神奈川県立相模湖交流センター 発売:2002年6月

 

アーユス・レーベル GECB2091 2,800円(税込価格)

在庫切れ

このディスクは「レコード芸術誌」で「特選盤」として推薦され、讀賣新聞夕刊の「サウンズBOX〜クラシック〜」と、雑誌「アントレ」の『朝岡聡的 新譜試聴記』で紹介されました。またレコード芸術2020年12月号の特集「新時代の名曲名盤500 vol.3 ベートーヴェン」で第6位(作品27-1)・第9位(作品27-2)。

ベートーヴェン、ヴィルトゥオーゾ期の最後を飾る、技巧的で創意工夫溢れる意欲作品たち。演奏者が自信をもっておくるディスク。

レコード芸術 2002年7月号

CD評 「月光」~幻想曲風ソナタ/クラヴィーア作品集

[推薦]小倉貴久子は東京芸大を了えてのちオランダに留学、かの地でピアノ、チェンバロを学ぶうちフォルテピアノに惹かれ、演奏に関する研究を独学できわめたという。ここ何年かに、独奏および室内楽、いずれもモーツァルト作品のCDを3点発表してきている。ここにお目見えしたベートーヴェンも、この人の研鑽がたいへん高い境地を拓いていることを実証して、非常に聴きごたえがある。使用楽器はクリス・マーネ(ベルギー)が1995年に製作したアントン・ヴァルター(1795年)のレプリカだが、すこぶる良い響きを立てている。このタイプのヴァルターはベートーヴェン本人が1800~02年に実際に使用していたフォルテピアノだということで、小倉貴久子は当然そのあたりを勘考し、その頃の作品である作品27の《幻想曲風ソナタ》2篇に、《7つのバガテル》作品33、《自作主題による6つの変奏曲》作品34を併せたプログラム作りをしている。どの作品もフォルテピアノの持味を十分に発揮せしめた秀演であるが、とりわけ「モデラート・ペダル」(ペダルとはいえ、膝をもって操作するレバー)を第1楽章アダージョに終始用いつづけたという《月光》の、デリカシーに満ちた雰囲気はすばらしい。4つの作品を通じ、「なるほど、これがベートーヴェンによって思い描かれ、感じられていた“本来の”音か」と、納得させられるのである。フォルテピアノによるベートーヴェンがすべて同じように説得力を持つとも限らないが、この“フォルテピアニスト”の指のもとで、説得力はきわめて高い。申すまでもなく、楽器自体の性能が良いから、と言うより、それを十全に把握して生かしきる奏者のセンスあってこそである。 〈濱田滋郎氏〉

[推薦]マーネ製作のヴァルターのレプリカを使用。《7つのバガテル》は多様な表情による演奏で、時に果敢に攻め立てる(たとえば第2番)。楽器が完全に鳴りきり、小品集というイメージとは違ったダイナミックな演奏が繰り広げられる。当然ながら、モダンのピアノとフォルテピアノとでは曲のスケール感が違ってくる。むしろ、これが等身大。フォルテピアノの美質を十分に引き出しうるピアニストだからこその演奏である。

 2曲の《幻想曲風ソナタ》作品27も聴きのがせない。27の1は、ひとつひとつのタッチに神経が行き届き、アーティキュレーションにもこまやかに神経が張り巡らされて、ここでも多彩な情感がもたらされる。第2楽章の主題は精力に満ち、狂おしいほどの活気とパッションをもって弾かれる。第3楽章は、抑制された高揚感をもった行進曲風の味わい。性格作りが明快だ。アレグロ・ヴィヴァーチェは熱気に溢れたダイナミックな演奏。最後まで集中力と力が衰えない、圧倒的な体力と精神力を示す快演である。

《月光》冒頭の第1主題は定石通りモデレーターによるくぐもった音色が幻想性を醸し出す。水中にいるかのようなサウンドはモダン・ピアノでは絶対に得られない。第2楽章と第3楽章も活気のある精力的な演奏だが、ここの両楽章はもう少し性格的な対比や複雑なニュアンス付けがあってもいいのではないかと思う。《自作主題による変奏曲》では華麗なパッセージが舞う、ダイナミックにして可憐な佳演。第3変奏ではダンパーとモデレーターを組み合わせた音色が夢心地に誘う 〈那須田務氏〉

録音評 95点 〈神崎一雄氏〉

 

讀賣新聞 2002年6月21日(金) 夕刊 サウンズBOX~クラシック~

讀賣新聞記者の注目盤

 フォルテピアノの小倉貴久子がベートーヴェンの初、中期のけん盤作品に挑戦。この楽器特有の豊富な音色や音量の増減を生かし、新鮮な味わいを引き出す。ほかに「7つのバガテル」など。