ソナチネ・アルバム

フォルテピアノ&チェンバロ:小倉貴久子

 

収録曲:

B.ガルッピ ソナタ ハ長調

G.Ch.ヴァーゲンザイル ディヴェルティメント ハ長調

P.D.パラディス ソナタ 第5番 ヘ長調

A.ソレール ソナタ ト長調

J.フック ソナチネ ニ長調

G.M.ルティーニ ソナタ イ長調

C.Ph.E.バッハ ソナタ ホ長調

L.ケルビーニ ソナタ 第2番 ハ長調

D.チマローザ ソナタ イ短調

G.ベンダ ソナチネ ニ短調

J.Ch.バッハ ソナタ 変ホ長調

W.A.モーツァルト ソナタ ハ長調

N.J.ヒュルマンデル ディヴェルティメント ヘ長調

G.ヴァンハル ソナチネ 第4番 変ロ長調

F.A.ホフマイスター ソナチネ 変ホ長調

L.v.ベートーヴェン ソナタ ト短調

M.クレメンティ ソナチネ ハ長調

J.L.ドゥセック ソナチネ ハ長調

A.ロゼッティ ソナタ ト長調

J.ハイドン ソナタ ニ長調

I.プレイエル ソナチネ 第3番 ト長調

F.クーラウ ソナチネ ハ長調

A.ディアベッリ ソナチネ ト長調

フォルテピアノ:クリス・マーネ製作(アントン・ヴァルター1795年のモデル)

チェンバロ:ヨープ・クリンクハマー製作(作者不詳、アルザス地方)

録音:2005年8月 牧丘町民文化ホール 発売:2006年6月

楽曲解説:平野 昭

ALM Records ALCD-1079, 1080(2枚組) 3,570円(税込価格)

CD:ソナチネ・アルバム

ALCD-1079, 1080〔2枚組〕(枚数はカートの中でご指定ください。小倉貴久子のサインを希望の方はカート内のメッセージ欄にてお知らせください。)

¥3,570

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このCDは、朝日新聞「クラシック試聴室」で推薦盤、「レコード芸術」で特選盤および読者が選んだ2006年ベストディスクで器楽部門第9位、ショパン"DISC SELECTION"で特選盤。また「ムジカノーヴァ7月号」の「NEW DISCS」のコーナー、「ぶらあぼ8月号」の「一聴必聴このCD&DVD」コーナー、山野楽器ヴァリエの「今月のお薦めアルバム」で紹介されました。

18世紀を彩った、23人の作曲家による愛すべきソナチネたちをフォルテピアノとチェンバロで綴る。小倉貴久子によって「再発見」された新鮮で魅力的な小品がいっぱい詰まった音楽の玉手箱。

[ソナチネという世界の新発見]

小倉貴久子がピアノ音楽ファンに新しい世界をプレゼントしてくれた。ソナチネという概念の再発見だ。おそらくこの再発見は一世紀ぶり以上ではないだろうか。〈平野 昭〉

ぶらあぼ 06年7月号 ぴっくあっぷコーナーより

インタビュー 小倉貴久子(チェンバロ/フォルテピアノ)

 

気持ちのいい朝を、毎日でも

 

 日本のフォルテピアノの第一人者と言っていいだろう。ブルージュ国際古楽コンクールでは、アンサンブル部門、フォルテピアノ部門で優勝し、聴衆賞も獲得。帰国後は、各回ごとにテーマを持たせた室内楽演奏会「音楽の玉手箱」や、コンサートシリーズ「ベートーヴェンをめぐる女性たち」「モーツァルトの生きた時代」など意欲的でユニークな企画を次々と立ち上げている。今回はモーツァルト・イヤーにちなんだシリーズ「Viva Amadeus!!」洋館サロンで楽しむモーツァルト」でフォルテピアノを披露する(6月24日既終了)。

「フォルテピアノ奏者が集まって昨年9月にスタートした企画。私は参加者の1人で、今回はシリーズの6回目。ほぼケッヘル番号順に、未完の作品も補作して取り上げています。開場の自由学園明日館は小さめですが、フォルテピアノにはちょうどいい広さ。そして楽器の音がストレートに伝わるホールです」

 今回の話題はもうひとつ、「ソナチネ・アルバム」のリリース。ピアノ学習者なら必ず経験したであろう「ソナチネ」の数々の中から彼女がセレクトしたものだ。モーツァルトやベートーヴェン、あるいは浜松市楽器博物館収蔵の歴史的な鍵盤楽器によるシリーズ、あるいは知られざる作曲家コジェルフの発掘など、彼女の録音も多彩なのだが、今度は「お稽古」用の作品とは。

「確かに簡単なテクニックで弾けるように書かれているんですが、お稽古用だけにしてしまうにはもったいないし、もともと教材用に作曲されたものではありません。名作「星の王子さま」のような、子ども向けに書かれていながら深さがある。ユートピアを夢見るような、明るくて前向きな音楽。音楽の愛好家のために肩の凝らない作品をと書かれたものですから、弾いていても楽しいんです。寝覚めのいい朝、気持ちのいい風に吹かれながら朝食を、あるいは蕎麦そのものの素朴な味を楽しむ、ざる蕎麦のようなイメージ。はたまた、赤ちゃんの笑顔のような幸せ感。よどみない流れに乗って楽しく時間が過ぎていく。音楽愛好家をくすぐるツボを心得ていて、楽しませてくれるんです」

 チェンバロとフォルテピアノを使い分けて録音しているのも目を引く。この形での録音は世界初かも。

「書かれた時代と作品の個性を考えて。モダン・ピアノでは表現できない『魔法のような音色』で弾ける。曲が短い分、構成は単純なので、演奏する際には音色がとても重要なんです。また定番でみんなが飽き飽きしている、あのアルベルティ・バス(ド・ソ・ミ・ソのような分散和音)でさえ、弾く喜びを感じられるんです」

 選曲にあたっては1人の作曲家に1作品と決めた。

「その作曲家の個性が最も出ている作品を選んだつもりです。そうして並べていくと、モーツァルトのような天才もその時代の空気を表現していることもわかってきます。親しみやすい作品ばかりですから、クラシックの楽しさを知るきっかけになると嬉しいです」

 目からうろこ。ぜひご一聴あれ。今後の企画のアイディアもすでに始動。それはまたの機会に。〈取材・文:堀江昭朗氏〉

レコード芸術 2006年8月号

CD評 小倉貴久子/ソナチネ・アルバム

[推薦]先年、小倉貴久子によるコジェルフの鍵盤楽曲集が発表されたさい、私は当欄で、貴重な楽曲の再発見を喜ぶとともに、演奏者が示す、フォルテピアノという楽器とその世界にすっかり同化した魅力のすばらしさに触れたと憶えている。その人が、このたびはチェンバロとフォルテピアノの双方を弾き分けながら、18世紀から19世紀初頭にかけ、ヨーロッパ諸国で生み出された「ソナチネ」(言うまでもなく正しくは「ソナティーナ」だが、日本での慣用がすっかり定着している以上、いまさら異論を唱えるのも野暮であろう)の数々を奏でている。内訳を記せば、順にガルッピ、ヴァーゲンザイル、パラディース、ソレール、フック(註、フックスの誤りではなくイギリス人のJames Hook)、ルティーニ、C.P.E.バッハまでをチェンバロ、ケルビーニ、チマローザ、ベンダ、J.C.バッハ、モーツァルト、ヒュルマンデル、ヴァンハル、ホフマイスター、ベートーヴェン、クレメンティ、ドゥセック、ロセッティ、ハイドン、プレイエル、クーラウ、ディアベッリをフォルテピアノで奏でている。なお、以上のうちJ.C.バッハまでが1枚目、モーツァルト以下が2枚目のCDとなっているが、これによって2枚目はモーツァルトの例の「やさしいソナタ」K.545から始まる。また、1枚目の冒頭に置かれたガルッピの曲は、かつてLP時代、ミケランジェリが弾いていたオールド・ファンには懐かしいチャーミングな調べて、こうしたことが、この好企画に世人の目を誘いやすくするならば幸せだ。内容はいわゆる「教材」として世に流布する周知の作から、初めて録音されたような「秘曲」の類まで幅が広いが、総じて「ソナチネ」すなわち規模の小さいソナタ作品が持つ固有の特色そして魅力を余すところなく伝える。解説で平野昭氏が述べられているとおり、「ソナチネ」はけっして初心者や子供たちのために作曲家たちが「手を抜いて」書いた作品とは限らず、中には「ソナチネならではの、ソナタとは別種の特性と、味わい」を立派にそなえた作品、言い替えれば「ミニチュアならでは」の美しさ、佳さを実感させる作品も、多々生み出されたのである。この2枚組アルバムは、その事実を改めて教えてくれるものだが、それというのも、小倉貴久子の弾きぶりが、期待どおり、楽曲それぞれを「今、生まれたもののように」瑞々しく再現する感性の冴えに貫かれているからだ。拍手!!〈濱田滋郎氏〉

[推薦]チェンバロとフォルテピアノ、モダンのピアノを同時に手がける音楽家は通常、その音楽家としての根源的な部分においてそれらのいずれかに立脚点があるものだ。その点について誤解を恐れずに言えば、小倉貴久子はどの楽器の演奏においても高水準の成果を上げつつも、筆者の見るところ、フォルテピアノ、それもいくらかモダン・ピアノ寄りの傾向があるように思う。どの楽器の奏法も音楽の様式も自家薬籠中としているが、チェンバロもフォルテピアノも、一音一音の発音や多様なアーティキュレーションに意識が向けられているというよりは、奔放ともいえる大きな音楽作りとそのダイナミズムにこそ彼女の演奏の大きな魅力があるといえるからだ。チェンバロとフォルテピアノを弾き分けたこのアルバムにもこうした小倉の美質が大いに発揮されている。そのため、たとえばチェンバロで弾かれたガルッピやクレメンティなどの作品は、通常のチェンバロ奏者のそれよりもモダン・ピアノのリスナーや学習者に馴染みやすいといえる。それはフォルテピアノで弾かれた、ケルビーニやチマローザ(モデラート装置の響きがすてきだ)のソナタやゲオルク・ベンダのソナチネなども同様だ。もちろん、単にソナチネ・アルバムでお馴染みの作曲家の曲を古楽器で弾いてみましたといった演奏とは次元を異にする。これらの作曲家が生きた時代の音楽語法や演奏習慣、演奏資料といった作品の原点に立ち戻った上で、持ち前の霊感に富んだ、時に奔放ともいえる演奏を聴かせている。モーツァルトのソナタも即興的な装飾音を盛り込んだ演奏で、とりわけ第2楽章が魅力的だ。その他、ヒュルマンデル、ヴァンハル、ホフマイスター、ロゼッティ、ディアベッリなど日頃あまり聴く機会のない作品が聴けるのも嬉しい。〈那須田務氏〉