小倉貴久子所蔵楽器の紹介

クリス・マーネ製作 (アントン・ヴァルター1795年のモデル)

Fortepiano made by Chris Maene after Anton Walter (1795)

 この楽器はウィーンのクラヴィーア製作家、アントン・ヴァルター(1752〜1826)の1795年製をモデルに、ベルギーのクリス・マーネが製作したもの。モーツァルトが自ら購入しウィーンで最期まで使用していた楽器がヴァルター製のもので、現在ザルツブルグのモーツァルト博物館にも展示されている。ベートーヴェンはウィーンへに引っ越した当初やはりこの楽器を所有していた。1F〜g3の5オクターブの鍵盤をもち、低音から高音まで平行に弦が張ってあり、響板の木目と弦が平行になっているため、左手の伴奏形がたとえ和音の連打であっても右手の旋律がくっきり聞えてくるという特徴がある。ペダルは左右に分かれた膝ペダルで右足を上げればダンパーが上がり音が伸び、左足を上げればハンマーと弦の間に布が入り込み弱音の効果を出すことができる。フォルテは芯がありその上倍音が豊かな華やかな音が出、弱音は繊細でレガートに歌う表現が可能。鍵盤が軽く演奏者の意図を確実に弦に伝えられるため、当時の作曲家が意図していた多彩な音楽表現ができる。