『音楽の玉手箱』

室内楽シリーズ「音楽の玉手箱」では、世にあまり紹介されていない隠れた名曲に光をあて、またポピュラーな名曲に対しては、とらわれのない新たな視点からアプローチしてゆきます。

小倉貴久子がバラエティーに仲間と共に企画する「音楽の玉手箱」は、お話しが入るなど、くつろぎながらお楽しみいただけるコンサートです。(全7回継続中)


「音楽の玉手箱 Vol.1」

~サロンで楽しむ小粋な音楽会~

ハイドンがスコットランド民謡をソプラノ、ヴァイオリン、クラヴィーアという編成に編曲したトリオ。モーツァルト10代最後の年に作曲されたオペラ、「羊飼いの王様」からヴァイオリンのオブリガートつきのアリア。また、作品7としてウィーンで同時に出版されたヴァイオリンソナタとクラヴィーアソナタ、他をとりあげました。

1996年12月9日 お茶の水スクエア内 ヴォーリズホール

出演:村谷祥子(ソプラノ)

   小田 透(ヴァイオリン)

   安田和信(お話)

プログラム

J.ハイドン:スコットランド民謡集より

   アリア「ベレニーチェ、何をしているの?愛する人が死ぬというのに・・・」

W.A.モーツァルト:ヴァイオリンソナタ 変ロ長調 K.454

   クラヴィーアソナタ 変ロ長調 K.333

   アリア「彼女を愛します、私は一生涯ずっと・・・」(歌劇「羊飼いの王様」K.208より)


「音楽の玉手箱 Vol.2」

~ハイドンからベートーヴェンへと受け継がれたウィットとセンス~

ボンから大都会ウィーンに出てきた青年ベートーヴェンは、当時ヨーロッパ中に名の知られていた大作曲家ハイドンの門をたたきました。そんな彼が初めて作品1と自ら銘打って世に問うた最初の作品はクラヴィーア三重奏曲。この作品には師匠の影響が色濃く反映されていますが、書法に限らず演奏家や聴衆に幸福を与える内面のウィットまでが受け継がれています。老ハイドンと青年ベートーヴェンの魅力溢れる会話をお楽しみいただきました。

1997年9月25日 東京オペラシティ リサイタルホール

出演:高田あずみ(ヴァイオリン)

   諸岡範澄(チェロ)

   塚田 聡(ナチュラルホルン)

   安田和信(お話)

プログラム

J.ハイドン:クラヴィーア三重奏曲 ホ長調

   クラヴィーアソナタ ハ長調

L.v.ベートーヴェン:ホルンソナタ ヘ長調

   クラヴィーア三重奏曲 変ホ長調 作品1-1

マンスリーみつびし 1997年12月号

私的オススメ・メディア 「東京オペラシティ」を訪れ、古楽器の演奏を楽しみ、そして、猫随筆の名著を読む。

この連載は、評論家の川本三郎氏が、最近接したメディアから気になったものを取り上げます。今月号では、今秋、東京・西新宿にオープンしたばかりの文化複合施設、東京オペラシティ、古楽器を演奏する小倉貴久子、猫好きで有名だった作家・大佛次郎への思いを

(関連記事だけを抜粋させていただいております)

武満徹のメモリアルホール

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 躍動感のある古楽器の演奏

 2週間後、同じオペラシティのなかにあるリサイタルホールで開かれた「音楽の玉手箱」というコンサートに出かける。

 こちらのホールはコンサートホールに比べるとずっと小さいし、凝った造りでもない。なんだか学校の体育館のように殺風景だ。それでも演奏会そのものは素晴らしかった。

 最近、日本人の演奏会のコンサートに足を運ぶようにしている。チケットが何万円もする三大テノールのような騒ぎに嫌気がさしたからである。日本人の演奏家のコンサートはチケットが安いし、小規模なので会場の雰囲気が家族的でいい。演奏家たちも誠実に、一生懸命演奏する。

 そんななかで、昨年、カザルス・ホールで小倉貴久子というピアニストを知った。フォルテピアノ、いわゆる古楽器でモーツァルトやハイドンを演奏する。とくにその日に弾いたハイドンのピアノ協奏曲は明るい躍動感にあふれていて、聴いていて心躍った。

 オペラシティの小ホールでの「音楽の玉手箱」は、この小倉貴久子を中心とした若手音楽家たちのアットホームなコンサート。ヴァイオリン(高田あずみ)、チェロ(諸岡範澄)、ナチュラルホルン(塚田聡)【いずれもオリジナル楽器 】が加わり、ハイドンの「クラヴィーア三重奏曲・ホ長調」やベートーヴェンの「ホルンソナタ」といったラブリィな小曲を演奏した。

 大編成の大曲「マタイ受難曲」を聴き終えたときは正直ぐったりと疲れたが、若い音楽仲間たちの小コンサートは終始くつろいで楽しく聴いた。次回は来年4月とだいぶ先だが、いまから予定に入れておこう。

 猫を愛した大佛次郎

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(文・川本三郎氏)


「音楽の玉手箱 Vol.3」

~オリジナル楽器によるモーツァルトの室内楽~

モーツァルトが室内楽作品を多く生みだしていったウィーン時代前期の円熟の作品を、「ソロ」「デュオ」「トリオ」「カルテット」とバラエティー豊かな編成でお届けしました。


2000年10月14日 東京文化会館 小ホール

出演:高田あずみ(ヴァイオリン)

   桐山建志(ヴィオラ)

   松岡陽平(チェロ)

   坂本 徹(クラリネット)

プログラム

W.A.モーツァルト:

   プレリュードとフーガ ハ長調

   ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 ト長調

   クラリネット三重奏曲「ケーゲルシュタット・トリオ」 変ホ長調

   クラヴィーア四重奏曲 ト短調


「音楽の玉手箱 Vol.4」

「ベートーヴェンをめぐる女性たち その2」

~アンナ・マリー・エルデーディ伯爵夫人~

 ベートーヴェンの作品は自らの発意と共に様々な状況に影響を受けて作曲されています。特に高い教養を持った貴族の女性たちとの交わりは大きな影響を与えました。近年の研究により従来の身分違いの女性に恋するベートーヴェンとは全く違う作曲家像が浮き彫りになってきています。

 

 ベートーヴェンが「懺悔聴聞僧」と呼んだエルデーディ伯爵夫人Anna Marie Erdoedy (1779~1837)。ベートーヴェンと一時期共同生活を営んでいたほど親密な友人であった夫人にベートーヴェンは様々な悩み事を相談していました。

 1808年、ナポレオン戦争の混乱から通貨が不安定になり、定収入のないベートーヴェンにとって経済不安が差し迫っていました。そんな折りベートーヴェンに、カッセル宮廷楽長の地位の提供の話がもたらされ、ベートーヴェンはウィーンを去ることを考えていました。そんな彼に対し、エルデーディ伯爵夫人はグライヒェンシュタイン男爵と語らって一計を案じたのです。

 それは、財力豊かな大貴族に働きかけ、彼らの共同出資によってカッセル宮廷楽長の年俸を上回る金額をベートーヴェンに終身受け取れるようにしようというものでした。この年金契約にルドルフ大公、ロプコヴィッツ侯爵およびキンスキー侯爵が応じ、締めて四千フロリンの年金を得ることができるようになりました。この契約によりベートーヴェンはウィーンにとどまり作曲活動に身を入れることができるようになったのです。

 この年金契約が正式にまとまった1809年に、ベートーヴェンはエルデーディ伯爵夫人に感謝の気持ちを込めたのでしょう。作品70の2曲の「ピアノ三重奏曲」を献呈しています。

 変ホ長調の作品70-2は優美な序奏をもつ、全曲が歌にあふれた平和でかくも美しい作品で、この作品を核にこのコンサートは企画されました。

 ウィーン会議のただ中にあった1815年に作曲された2曲のチェロソナタ作品102もエルデーディ伯爵夫人に献呈されたものです。エルデーディ伯爵夫人はシュパンツィヒ弦楽四重奏団の名うてのチェロ奏者、ヨーゼフ・リンケと暮らしていたことがありました。ベートーヴェンもリンケからはチェロの奏法について様々な助言を得ていたとのこと。ピアノの名手でもあったエルデーディ伯爵夫人とリンケとの共演を頭に描いての献呈だったのかもしれません。

 ハ長調作品102-1のチェロソナタは「ピアノとチェロのための自由なソナタ」と題された、古典的な楽章構成から離れた「幻想曲」のような仕立ての作品です。

 当コンサートでは他に、上記2曲と同時代に作曲されたヴァイオリンソナタ ト長調作品96(1812年作曲)と、ピアノソロのための幻想曲(1809年作曲)が演奏されました。

2002年4月10日 東京文化会館 小ホール

出演:小倉貴久子(フォルテピアノ)

   荒井英治(ヴァイオリン)

   花崎 薫(チェロ)

プログラム

L.v.ベートーヴェン:

   幻想曲 作品77

   ヴァイオリンソナタ ト長調 作品96 (第10番)

   チェロソナタ ハ長調 作品102-1 (第4番)

   ピアノ三重奏曲 変ホ長調 作品70-2 (第6番)

使用楽器 マテーウス・アンドレアス・シュタイン Matthaeus Andreas Stein 1820年頃 ウィーン(フォルテピアノ ヤマモトコレクション提供)

音楽の友 2002年6月号 コンサート・レヴュー

音楽の玉手箱(第4回)

 小倉貴久子が自ら主催する室内楽シリーズ〈音楽の玉手箱〉の今回は、ベートーヴェンの良き理解者であり、相談相手でもあったアンナ・マリー・エルデーディ伯爵夫人に焦点が当てられた。オール・ベートーヴェンのプログラムは、彼女に献呈された「チェロ・ソナタ第4番」と、同じ頃作曲された「クラヴィーアのための幻想曲」、「ヴァイオリン・ソナタ第10番」、そして「ピアノ三重奏曲第6番」である。共演は東京フィル・コンサートマスターの荒井英治と新日本フィル首席チェロ奏者の花崎薫、小倉の使用楽器は、やはり同時代の1820年頃ウィーンで製作されたマテーウス・シュタインが運び込まれた。時代を含めた深い考察から生み出されたのは、どちらかというと緊迫感よりも自由で明るい雰囲気であり、典雅なたたずまいに重きを置いた風趣で、得もいわれぬ優美な響きが濃密に再現されていた。それだけに今後は、会場の広さと楽器自体の音量のバランスにも配慮があってよいだろう。(4月10日・東京文化会館)〈真嶋雄大氏〉


「音楽の玉手箱 Vol.5」

「パトロンシリーズ その1」

~ルドルフ大公の功績を讃えて~

 生活面だけでなく、精神的にも深い関わりをもって作曲家をサポートしたパトロンの功績を讃えつつ芸術作品の真髄に迫る「パトロンシリーズコンサート」。シリーズその1ではルドルフ大公に焦点をあてました。

2004年11月23日 東京文化会館 小ホール

出演:小倉貴久子(ピアノ)

   荒井英治(ヴァイオリン)

   長明康郎(チェロ)

   三界秀実(クラリネット)

プログラム

L.v.ベートーヴェン:

   ピアノソナタ 第26番 変ホ長調 作品81a《告別》

   ピアノ三重奏曲 第7番 変ロ長調 作品97《大公》

ルドルフ大公:

   クラリネットソナタ イ長調 作品2


「音楽の玉手箱 Vol.6」

TAN's Amici Concert

メンデルスゾーン生誕200年 ~音楽の翼をもった妖精~

優しく 輝く メンデルスゾーンの 美しい夜

「歌の翼に」に代表されるファンタジー溢れるリートの世界。畑儀文さんのテノールの歌声で愛と夢の世界へと誘います。バッハを敬愛していたメンデルスゾーンがピアノ伴奏をつけた「シャコンヌ」。バッハとメンデルスゾーンに精通した桐山建志さんによる演奏は必聴です。名作のピアノトリオは、情熱的で美しい音色で人気のチェリスト花崎薫さんと、ヴァイオリンがしなやかに歌う桐山建志さんと魂を結集して演奏します。「無言歌」「厳格なる変奏曲」...、メンデルスゾーンの魅力がいっぱい詰まったプログラムです。メンデルスゾーン研究の第一人者、星野宏美さんによるコンサートの聴きどころなど楽しいプレトークでお迎えいたします。


2009年6月22日 第一生命ホール

出演:小倉貴久子(フォルテピアノ)

   桐山 建志(ヴァイオリン)

   花崎 薫(チェロ)

   畑 儀文(テノール)

   星野 宏美(プレトーク)

[プログラム]

・ピアノとチェロのための無言歌 ニ長調 作品109

 Lied ohne Worte D-dur Op.109

・ピアノのための無言歌集より「春の歌」 イ長調 作品62-6

 Lied ohne Worte A-dur "Fruehlingslied" Op.62-6

・ヴァイオリンとピアノのための「シャコンヌ」 ニ短調

 (J.S.バッハ作曲パルティータ第2番「シャコンヌ」のメンデルスゾーンによるピアノ伴奏版)

 Chaconne aus der Partita  d-moll BWV1004 fuer Violine und Klavier

・「歌の翼に」 "Auf Fluegeln des Gesanges" Op.34-2

・「新しい恋」 "Neue Liebe" Op.19-4

・「月」 "Der Mond" Op.86-5

・「ヴェネツィアのゴンドラの歌」 "Venetianisches Gondellied" Op.57-5

  他

・厳格なる変奏曲 ニ短調 作品54

 Variations Serieuses d-moll Op.54

・ピアノ三重奏曲 第1番 ニ短調 作品49

 Trio fuer Klavier, Violine und Violoncello d-moll Op.49


「音楽の玉手箱 Vol.7」

アルルの女

ビゼー ピアノ作品と歌曲の夕べ

 有名なビゼーの管弦楽用組曲《アルルの女》は、元をたどるとアルフォンス・ドデの戯曲につけられた劇付随音楽でした。そのオリジナルの《アルルの女》は小編成のオーケストラのために書かれたもので、情景と心情を音にした情緒豊かな音楽が紡がれていきます。南仏のカマルグを背景にしたこの田園哀歌では、農家の青年の都会の女に対する激情的な愛、子を思う母、乙女の純愛、老人たちの黄昏の恋などがさまざまに交錯します。演奏会では、作曲家自身によるピアノ版を、野々下由香里さんの朗読と共にお届けします。 

 美しいメロディーを生み出す、ビゼーの面目躍如たるジャンルは歌曲にあるといってもいいでしょう。オペラ《カルメン》のアリアの旋律に、勝るとも劣らない珠玉の歌曲は絶品です。 

 パリ高等音楽院で14歳の時にピアノで一等賞を獲ったビゼー。彼のピアノ曲は、技巧的な作品から叙情的な作品まで、豊かな世界が形成されています。ジョゼフ・メリの詩にインスピレーションを得て作曲した6曲の無言歌集「ラインの歌」など、エスプリの効いた作品の数々。ビゼーと同時代にパリでつくられたプレイエル・ピアノで聴くビゼーの愛の世界をお楽しみください。 

2017年4月20日 ムジカーザ

出演:小倉貴久子(フォルテピアノ)

   野々下由香里(ソプラノと朗読)

[プログラム]

ジョルジュ・ビゼー

Georges Bizet 1838-1875

《ピアノ・ソロ》

ノクターン ヘ長調 ニ長調 Nocturne en fa majeur et ré majeur 

半音階的変奏曲 Variations chromatiques 

幻想的な狩り Chasse fantastique

ラインの歌 〜6つの無言歌〜 Chants du Rhin, Six romances sans paroles

《歌曲》

4月の歌 Chanson d'Avril

パステル Pastel

あなたが好きなら Si vous aimez!

てんとうむし La coccinelle

愛の歌 Chanson d'amour

《ピアノと朗読》

劇付随音楽〈アルルの女〉(作曲家自身によるピアノ版) L'Arlésienne