小倉貴久子 活動の記録

1989年

第3回日本モーツァルト音楽コンクールピアノ部門 優勝

 

【「レッスンの友」誌のインタビュー記事】

ピアノ専門誌 「レッスンの友」 1989年2月号

若手ズームアップ ピアニスト 小倉貴久子さん

 

昨年の12月18日(日)に津田ホールで行われた「第3回日本モーツァルト音楽コンクール」本選会において見事優勝した小倉貴久子さんにインタヴュー。小倉さんは、90年開催予定の「第5回国際モーツァルトコンクール、ザルツブルク」派遣者選抜演奏会への出場権を得た。

  まず、優勝された感想は?

「今まで、こういう賞をいただいたことがありませんでしたので、やはり、こういう形で皆さんに認めていただけたことは、すごい喜びです。演奏することに対して、楽しくできる方だと思うので、これから活動していく上で、いい第1歩を踏み出せたなあとうれしく思っています。」

  楽しく演奏する方?

「緊張はもちろんしますけど、誰かに聴いていただくことが好きなんです。以前から出たがりというか、人前で話をするのも好きで、つまり人と接触することが好きなんです。

 舞台に上がってしまうと、やるだけやろうという気持ちになってくるんです。弾いているうちに、ホールの響きが良かったり、ピアノの状態が良かったりすると、家で弾くよりももっといい音が出たり・・・・そういう楽しみがあるし、拍手が大きいと、ああ、喜んでいただけたのか、と嬉しくなります。曲を弾いている最中にも聴衆の反応が感じられるので、私は本番にのっていく方だと思います。」

 小倉さんは、物心のつく前からピアノを弾いていた。小学校時代は、父親の転勤で転々としていたが、ピアノに対する情熱は、ずっと持ち続け、七夕やクリスマスの願い事には、いつも「ピアニスト」と書いていた。

「わりと単純な性格で、あまり物事にこだわらない。何かつらいことがあっても、楽観的に考えてしまう。自然なままに今まできたと思う。」

  都立の芸高時代は、どんな風に勉強を?

「高校の時は、まじめに勉強していました。校風がそういう感じで、皆よく練習していて、それが当たり前の生活と思っていました。学校から帰ってきたら、夕飯まで練習して、夕飯のあとも練習という具合で、今考えても、よく練習したなあと思います。曲数も多く持つことができました。その頃は、東京芸大に入るのがまず目標でしたので、そのための勉強をたくさんしました。」

  芸大に入られてからは?

「高校時代にすごくテクニックという意味で勉強をしてましたので、やはり今度は音楽性ですね。私は以前から、自分では、音楽を歌う歌心というのを持っていると思っていたのですが、本番で人に聴いていただいて快い感じを持っていただける歌い方というか、そういう普遍的な歌い方というのについては、まだまだ未熟だったと思うんですね。ですから、広く勉強することになりました。高校の時は、いろんな音楽を聴くことが欠けていたなあと思って。大学に入ってからは友だちもいろんな人がいまして、伴奏や室内楽でもずい分勉強できました。音楽の幅の勉強ですね。オーケストラ、歌、室内楽等興味を持って聴くようになりました。

 人と一緒にやることで勉強になったのは、客観的に自分の本番を聴くことができるようになったことですね。これはすごくよかったと思います。ソロで弾く時に、これは多いに参考になりました。」

  これからの抱負は?

「私は、これから少しずつ音楽会をやっていきたいので、そういう意味で、いろいろな音楽関係の方々と接触をもって、自分の道を少しずつでも開いていきたいと思っています。

 やはり、私の音楽を気に入って下さる方々がいる、というのが一番の喜びですから、そういう方が少しでもできて下されば、と思います。わりと物怖じしない方なので、そういう性格を活かしていきたい。」

  特にアピールしたい点は?

「聴いていてだんだんリラックスしていただける様な音楽家になれればと思っています。聴いていてだんだん興奮して、ドキドキしてくる演奏も必要だし、大切だと思いますが、今日演奏会に来て、明日からまたやる気になったとか、そういう風な形で人と交流できたらいいなと思う。サロン的なコンサートもやりたい。」

  留学の予定は?

「今のところ、オランダへ行きたいと考えています。ヨーロッパ音楽を日本で勉強するのと、向こうで、その息吹を感じるのとでは全然違うと思いますので、ヨーロッパには行きたいと思っていました。」

  オランダというのは?

「オランダにつきたい先生がいらっしゃるし、それに、まだ私はどういう音楽が合っているかとか、どういう音楽家であるかというのがよく分かっていないので、オランダでしたら、いろいろな音楽がありますし、そこで自分を発見したら、ドイツなりフランスなりに決めたいと。まだ若いですし、いくらでも変わる可能性があると思うので、早くから限定しない方がいいと思いました。」

  ところで中山靖子先生からはどんなことを学ばれましたか?

「とても気品のある先生で、音楽もそのような感じです。バランスがよくなったと言われるようになったのは中山先生のおかげです。」

  田村宏先生からは?

「とても研究熱心な先生からは、音楽に対するとりくみ方、姿勢を教えていただいていると思います。先生は音楽のつくり方がやわらかで、ヨーロッパの伝統ある音楽のフレーズのとり方などを教えていただいています。」

  趣味はお持ちですか。

「生け花を。草月流ですが、大学に入ってから始めたんです。お花の先生がとても音楽好きの方で、いつも応援して下さって、とても励みになっています。

 生け花は音楽につながる面があって、例えば、粗密のとり方などで構成を考えること、そういうセンスを養うことなどが共通しています。

 それにピアノばかりやっていて、スランプになった時など、生け花をやると気分を発散できてすごくいい。

 ヨガも好きです。呼吸の仕方、力の抜き方、体全体の使い方など、ヨガですごく楽になり、とてもピアノが弾き易くなるんです。」

  生け花もヨガもピアノに役立っているんですね。

「ええ、私は全てのことが役に立つと思っているんです。この間のフィギュア・スケートを見ていても影響を受けました。いろんな面で、特に自分が悩んでいる時に、そういうものがきっかけで、悩みから一歩外に出られるとか。わりとピアノ以外のところからきっかけをつかむことが多いです。

 バレエの森下洋子さんが、テレビで毎日の練習のこととか、おっしゃっていたことを紙に書いて、ピアノの横に置いて練習のはげみにしたこともあります。」

 意欲満点。これからが楽しみである。