小倉貴久子 活動の記録

1995年

○2月14日 東京文化会館 小ホール

古楽器トリオ ~シンポシオン~ 民音演奏会

共演者:坂本 徹(クラリネット)、諸岡範澄(チェロ)

ベートーヴェン:トリオ 変ロ長調 作品11「街の歌」、クラヴィーアソナタ 第14番 作品27-2「月光」、トリオ 変ホ長調 作品38 他

 

○5月27日 リュッセルスハイム(ドイツ)

古楽フェスティバル 「トリオ・ファン・ベートーヴェン」

共演者:坂本 徹(クラリネット)、諸岡範澄(チェロ)

ベートーヴェン:トリオ 変ロ長調 作品11「街の歌」、クラヴィーアのための変奏曲 作品34、チェロソナタ 作品5-1 他

 

☆7月6日 エオリアンホール(上野学園内)

小倉貴久子フォルテピアノリサイタル ~モーツァルトのソロと室内楽の夕べ~

共演者:森田芳子(ヴァイオリン)、諸岡涼子(ヴィオラ)、諸岡範澄(チェロ)、三宮正満(オーボエ)、坂本 徹(クラリネット)、塚田 聡(ホルン)、岡本正之(ファゴット)

モーツァルト:クラヴィーアソナタ ヘ長調 K.533、クラヴィーア四重奏曲 変ホ長調 K.493、クラヴィーア五重奏曲 変ホ長調 K.452 他

 

8月 ブルージュ国際古楽コンクール フォルテピアノ部門優勝 聴衆賞を併せて受賞

 

讀賣新聞 1995年8月25日(金) 朝刊「顔」

ブルージュ国際古楽コンクールのフォルテ・ピアノ部門で優勝した 小倉貴久子さん

 きらめく高音、とどろく低音。中音域での自在な表情づけ 決勝のモーツァルトを弾き終えた時、満員の聴衆から「ブラボー」「ファンタスチック」の歓声が起こった。「まるでジャズを聴くように、体で感じてもらえたのが一番うれしかった」と、その時の感激を語る。

 ベルギーの古都ブルージュで、毎年八月初めに開かれる世界最高の古楽器演奏コンクール。会場の市立劇場での録音を改めて聴いても、独特の強じんなタッチと技巧がよく分かる。

 コンクールは三十二回目。今回で五回目のフォルテ・ピアノ(古典・ロマン派時代のピアノ)部門で、参加者二十五人の首位に輝いた。日本人ソリストの優勝は、トラベルソ(バロック期のフルートの有田正広に次ぐ二十年ぶりの快挙だ。

 「大学在学中、二年間ピアノ留学したオランダで、初めて古楽器の演奏に触れ、ショックでした。こんなに色彩的で表情豊かだなんて。瞬く間にのめりこんで、演奏会や楽器製作の工房に通い詰め、フォルテ・ピアノの独習を始めました」

 二年前、同コンクールの合奏部門に三重奏の一人として代役を頼まれ出場。わずか一か月の特訓で優勝した。これも日本人合奏団では十八年ぶり。以来、曲の時代に従って現代楽器と古楽器を弾き分けるたぐいまれなピアニストとして活躍する。

 「作曲当時の楽器は、作曲家の意図を手に取るように伝えてくれる。同じ実感をもつ仲間が増えています」

 来月八日、東京・カザルスホールで開く優勝後初の演奏会では、古楽器でシューマンなどのロマン派に挑む。

    文化部  副島 顕一氏

 

古楽情報誌アントレ 1995年9月号

小倉貴久子氏が第1位  ブルージュ国際古楽コンクール・フォルテピアノ部門。聴衆賞も受賞

 第32回ブルージュ国際コンクールのフォルテピアノ部門で小倉貴久子氏が第1位を受賞、併せて聴衆賞も獲得した。このコンクールでのソロ部門日本人の第1位は有田正広氏以来20年ぶり、またフォルテピアノ部門で第1位が出たのは9年ぶり、3回目である。小倉氏は93年の同コンクールのアンサンブル部門で第1位を獲得した「トリオ・ファン・ベートーヴェン」(Cl坂本徹、Vc諸岡範澄、Fp小倉の3氏)のピアニストでもある。

 オランダに留学する前は全く古楽器に縁がなかったのですが、アムステルダムでは友人の半分が古楽器を演奏し、私の師匠(W.ブロンズ)も古楽器を演奏するという環境で、自然に興味が向かい、A.アウテンボッシュにチェンバロを習っていました。フォルテピアノはいつかはやりたいと思っていたのが、帰国1カ月前にコンクールのアンサンブル部門の代役という思わぬきっかけで始めたわけです。

 帰国後のフォルテピアノでの演奏会は、昨年まではトリオのデビュー演奏会と荒川恒子先生のアンサンブルで弾かせていただいたくらいで、本格的に始めたのは今年1月に楽器が来てからです。フォルテピアノに関しては先生はいません。音楽の解釈、楽譜を読んで音楽を作っていくという点ではモダンも古楽も変わりないと思いますし、奏法については実際の演奏の都度、響きを耳でとらえることによってタッチなどの表現方法が自然に身についていくと考えています。私は今年からC.マーネ氏のヴァルター・モデルを弾いていますが、繊細かつ豊かな音が出る楽器で、この楽器からもずいぶんと学ぶことができました。

 奏法は音楽と不可分なもので、この点ではアンサンブルの機会がたくさんあったのは幸せでした。シンポシオンはうるさい人ばかりですし(笑)。あとコンクールの曲の仕上げには夫(塚田聡氏、ホルン奏者)との共同作業の成果が大きかったです。今年は2月からFMの録音、シンポシオンでのコンサートとドイツ演奏旅行、サロンコンサートも数回、また7月には課題曲を中心としたプログラムでのリサイタルと、充実した練習ができました。

 フォルテピアノ部門の参加者は25人でした。本選に進んだのが4人、私以外ではオランダ人が2人、それにオーストリア人です。本選ではアンサンブルもあってモーツァルトのピアノ四重奏変ホ長調。「イル・ジャルディーノ・アルモニコ」のメンバーが共演者で、これが素晴らしい。うれしくなってしまうような活き活きとした音楽で、与えられた練習時間は前日に30分間と限られたものでしたが、以前から一緒にやってきたように息がぴったり合い、本番でもコンクールであることを忘れてエキサイティングな演奏ができました。

 本選ではやはりC.マーネの楽器を選びました。使い慣れていることもあるのでしょうけれど、当日あった中では一番音楽的な楽器だったと思います。マーネ氏自身も奥さんと応援に来てくれました。また会場でのリハーサルでは2年前同様、調律の梅岡俊彦さんが飛び回っていろいろアドヴァイスしてくださり本当に感謝しています。

 発表のあと審査員からも直接講評を聴きましたが、レオンハルトから絶賛されたのはうれしかったです。お客さんの反応は熱狂的でした。聴衆賞というのはお客さんの投票で決まるのですが、毎年あるわけではないようです。1位の人は必ずもらうというわけではなく、併せて受賞するのは大変価値のあることだ、と現地の人から言われました。

 これから優勝記念演奏会のようなものも含めてどんどんやっていきたいのですが、実は11月に出産を予定していまして、考えるのはそれからになります。春頃から始められると思います。シンポシオン(坂本徹指揮)でモーツァルトの協奏曲をやろうという話もありますし、その時は是非聴きにいらしてください。   (小倉氏・談)